納税対策…その2

21  特殊納税対策    

 

 @相続税額の取得費加算と延納の活用 

 相続税を金銭で一時に納付できない場合の納税対策とし 

 T 相続財産を売却して納付する方法 

 U 延納 

 V 物納  

     がありますが、ここではT、Uを説明していきます。

 

 T  相続財産を売却して納付する方法(相続税額の取得費加算) 

 相続税を納付するために、相続により取得した財産を申告期限の翌日から3年以内に売却した場合には、相続税額のうち一定額については取得費に加算されます。これは相続税と譲渡税の負担を配慮するために設けられた制度です。

 

取得費に加算される金額(土地の場合)

   

譲渡した者の×                分母のうち全ての土地等の価額

  相続税額    譲渡した者の相続により取得した財産の課税価格(債務控除前) 

 

譲渡取得金額収入金額−(取得費++譲渡費用)

 

 具 体 例
●相続財産10億円(×土地:6億円、Y土地:4億円)
●相続税額4億円
●相続税評価額4億円のY土地を売却した場合の取得費加算額の計算
4億円(相続税額)×10億円(土地等の価額)/10億円(課税価格)=4億円

 以上のようなケースの場合には取得費加算だけで4億円となるため、譲渡税の心配はほとんどありません。

    

 U  延納制度 

 

 相続税は財産課税の性質上、多額の税額を一時に納付することが困難な場合があります。そのような場合に備えて最高20年間の延納制度が設けられています。相続により賃貸不動産等を取得した場合は、賃料収入を延納財源に充てて税金を毎年分納(延納制度の活用による)することも考えられます。

   延納の要件は以下のとおりです。 

 (1) 相続税額が10万円超であること 

 (2) 申告期限までに延納申請書を提出すること 

 (3) 金銭で一時納付することが困難であること 

 (4) 担保を提供すること 

 上記の要件を満たした場合には、最高20年の元金均等の年賦払いによる延納が認められます。なお、延納期間と利子税は相続財産に占める不動産等の割合により異なりますが、その概要は以下のとおりです。 

 

 不動産等の割合

   区  分

 最長延納期間()

 利子税   ()

  75%以上

不動産等に係る税額

 20

 3.6

 

その他に係る税額

 10

 5.4

50%以上

不動産等に係る税額

 15

 3.6

  75%未満

その他に係る税額

 10

 5.4

  50%未満

    

  

 6.0

   なお、平成'2年1月1日以後の期間に対応する利子税の率は以下のように公定歩合に運動する取扱いとなっています。

 延納特例割合=

上記の区分による利子税の率×(基準時点の公定歩合+4%)/7.3%

  

   延納制度は最長20年の賦払いが可能なため毎年の納付額は比較的少なくてすみますが、実務上は利子税は必要経費とならず、また、将来の思わぬ収入減により納付を続けることが厳しくなるケースも多くありますので、延納を選択する場合には中長期間の綿密な資金計画が必要です。

 

 V  延納中の物納の選択 

 

 従来はいったん延納申請をした場合には、その後の物納への切り替えは認められていませんでした。しかし、平成18年度の税制改正により、資力の状況の変化等により延納による納付が困難になった場合には、申告期限から10年以内に限り、延納税額の残額を限度として物納に切り替えることができる制度が創設されました。 

 この場合における物納財.産の収納価額は、当初申告した時におけるその財産の評価額ではなく、原則としてその物納に係る申請時の価額とされていますので注意が必要です。 

 

 W  物納の有利・不利 

 

 相続により取得した財産を譲渡してその譲渡代金をもって納付するのと、物納するのとでは、どちらが有利となるでしょうか。 

 財産の相続税評価額はいくらか、財産がいくらで売却されるか、売却の時期はいつ頃か等により異なりますが、ここでは次の事例により物納・譲渡の選択をシュミレーションしてみます。

事例 ひらめき

   納付すべき相続税額(=X):2,000   

  ●物納財産(=A):物納収納価額2,OOOの土地    

  ●物納により発生する経費(=B):100(土地測量代金)     

  ●土地Aの譲渡価額(=C):2,100     

  ●譲渡経費(=D):160(土地測量代金十仲介手数料     

  ●譲渡税(=E):ゼロ(相続税の取得費加算の適用による)     

  ●延納利子税(=F):50(申告期限から納税までの期間の延納利子税)

(1)物納による自己資産金からの負担額の試算

   
(A-B)-×=(2,000-100)-2,000=△100

 

(2)譲渡による自己資産金からの負担額の試算

   
(C---F)-×=(2,100-160-0-50)-2,000=△110 

 

 物納により相続税額の全額の納付は完了しますが、測量費等の譲渡に係る諸経費100は自己資金から調達することになります。 

 一方、譲渡によった場合は譲渡により譲渡代金から譲渡諸経費を差し引いた手取り額1,890では相続税の全額を納付できないため、110を自己資金から調達して納付することになります。 

 本ケースの場合には、自己資金からの負担額は譲渡によった場合の方が多くなるため物納を選択した方が有利となります。ただし、上記前提条件の下の試算であるため、条件が異なると結果も異なります。 

 また、平成18年度の税制改正により、物納による納付の場合でも利子税の負担が求められることとなったので、より慎重なシミュレーションが必要となります。

  

 A物納制度の活用 

 

 相続税の納付は金銭一時納付が原則ですが、金銭で一時に納付が困難な場合は延納となり、延納でも金銭納付困難な場合に物納が認められています。相続した預貯金等では相続税の納付が困難な場合は、取得した不動産を売却してその売却代金により納付することも一法ですが、不動産の売却に相当時間を要することが予想されたり、相続税評価額より低い価額でなければ売却が困難な状況にある場合には、物納による納付を選択することが得策と思われます。 

 物納は納付方法の特例規定のため、物納による納付を計画する場合には、相続開始前からの準備が重要となります。まずは所有財産の現況を確認し、財産を、「事業継続のために所有が必要な財産」、「状況によっては売却を検討してもよい財産」、「物納する財産」に3分類した上で、物納対策はスタートします。

 

  T  物納の要件 

 

 物納ができる要件は概ね以下のとおりです。

  (1) 相続税を延納によっても納付することが困難な事由があること

  (2) 申請により税務署長の許可を受けること

  (3) 金銭で納付することが困難である金額の限度内であること

  (4) 物納が認められる財産であること 

 なお、平成18年度の税制改正により、相続税の物納制度について、手続きの明確化・迅速化等の観点から以下の点に関し見直しが行われました。

  (1) 物納不適格財産の明確化等 

 ・抵当権が設定されている不動産、境界が不明確な土地等、管理または処分をするのに不適当な財産の範 

  囲の明確化が図られました。 

 ・市街化調整区域内の土地や無道路地などの物納劣後財産の範囲を明確化し、物納適格財産がない場合に

  のみ物納を認められることとなりました。 

 ・他に物納適格財産があるにもかかわらず、物納不適格財産や物納劣後財産を物納申請した場合には、物納

  申請が却下されることになりました。

  (2) 物納手続の明確化

  ・物納申請時までに、登記事項証明書、測量図、境界確認書等の一定の書類を提出しなければならなくな

   りました。

  ・上記書類に不備があり、税務署長の請求後20日以内に訂正または提出がない場合には物納申請を取り

   下げたものとみなされることとなりました。

  ・税務署長は、1年以内の期間を定めて、廃材の撤去等の必要措置を講じることを請求することができる

   ようになりました。なお、期限内に当該措置がされなかった場合には申請は取り下げたものとみなされ

   ます。 

  (3) 物納申請許可に係る審査期間の短縮

  ・税務署長は、物納申請の許可または却下を原則として物納申請期限がぢ3ヶ月以内に行うことが法定

   化されました(一定の場合には6ヶ月または9ヶ月に延長)。

  (4) 物納申請を却下された者の延納申請 

  物納申請の全部または一部が却下された場合には20日以内に延納申請ができることになりました。

  (5) 金銭納付困難要件の明確化

  ・今まで暖昧であった、金銭または延納による納付困難要件について、その判定方法の明確化が図られ

   ることになりました。

  以上のように平成18年度の税制改正により、物納制度について極めて厳格化されることになりました。今までは、申告期限までに物納が可能か否か、物納が有利なのか否かの判断が間に合わない場合にはとりあえず物納申請をしておくことが多かったと思います。しかし、改正により申告期限までにほぼ完壁な物納申請準備を行う必要がでてきたため、今後は生前からの綿密な対策が極めて重要なものとなりました。

 

  U  物納財産の順位 

 

 相続で取得した財産を物納する場合、その取得した財産を納税者の自由意志により選択することは制限を受け、一定の優先順位があります。原則的には優勢順位の高い財産から順に物納に充てる必要があります。

 

 順  位

 財産の種類

 第1位

 国債・地方債

 第2位

 不動産・船舶

 第3位

 社債、株式、証券投資信または貸付信託の受益証券

 第4位

 動産

  

 また、平成18年度の改正事項にあるように、同順位の財産であっても、物納適格財産および物納劣後財産の範囲の明確化が図られたことから、より一層納税者の自由意思が排除されることになりました。

 

  V  物納財産の収納価額 

 

 物納により収納される財産の価額は、原則として相続税評価額(申告した価額)です。また、小規模宅地の減額の通用を受けた宅地については減額後の価額になりますので注意が必要です。

 実際の時価、仲介手数料、譲渡税(相続税の取得費加算の適用あり)等と相続税評価額を比較検討し、物納の選択が有利かどうか判断しなければなりません。 

 

  W  物納による納税対策 

 

 繰り返しになりますが、物納による納付を予定する場合には、事前の準備が今までにもまして非常に重要なものとなりました。 

 物納は納付方法の特例規定であるため、無条件に認められるものではありません。物納したい財産が選定された後は、その財産が物納不適格財産または物納劣後財産でないかを確認し、不適格財産等である場合には、何をどのように改善すれば適格財産となるか等の対策を講じる必要があります。 

 また、誰がどのようにその財産を取得すれば物納が可能となるか、相続人間での遺産分割協議方法も物納の可否の重要なキーポイントとなります。 

 したがって、相続が開始してから物納を検討するのでは、ほぼ手遅れと言えるでしょう。そのため、物納による納付を選択する場合には、相続発生以前からの長期的な対策が極めて重要です。